任天堂、携帯電話事業に参入する競争上の優位性がない。携帯電話は娯楽の装置ではなく公益サービス。
なぜ、任天堂はソニーやマイクロソフトのように、携帯電話機能付きの携帯ゲーム機の開発に取り組まないのか、この誰もが思う疑問に任天堂アメリカの社長Reggie Fils-Aime氏は、4月1日のCNNのインタビューで次のように述べている。
Reggie Fils-Aime氏「私たちは(電話機能)の追加要素を提供することなしで、誰かのポケットで私たちの方法で稼げるだろうと信じている」
任天堂のトップ制作責任者Hideki Konno氏は、そのアイデアを全部否定はしないが、携帯電話市場に参入するには多大なコストが伴い、その参入コストが小売価格(ソフトの値段)にも影響するだろうという。
CNNの記事ではニンテンドー3DSの特別な眼鏡がいらないで3D映像を楽しめることを紹介し、韓国のLG電子や台湾のHTCは3D眼鏡なしで、ディスプレイ表示が可能なスマートフォン開発に取り組んでいることを指摘している。
また、アップルがiPad touchによって、電話機能がない娯楽を提供していることも述べている。確かにiPad touchには、電話機能やSNS(ショートメッセージサービス)は搭載されていない。さらに、サムスンが「ギャラクシープレイヤー」をここ数ヶ月で、アメリカにて発売するとある。
このように様々な記事が書いてあるのだが、特に印象的なのはここからだ。
CNNによると、任天堂は最近、急成長をしているスマートフォンゲーム市場を頻繁に批判するようになったという。ある幹部によると、スマートフォンでは、Appストアモデルの低下は、ゲームの質とスマートフォンゲーム市場を維持できない。
これについて思いだすのは「アタリショック」である。少し、昔話になるのだが、任天堂がファミリーコンピューター(ファミコン)を出したのは1983年7月15日である。日本での家庭用ゲーム機普及の担い役となったものだが、実はアメリカでも家庭用ゲーム機が6年前に発売されている。
アタリショックとは1977年にアメリカでアタリ社から発売されたテレビゲーム機「Atari 2600(発売当初は Video Computer System と呼ばれていた。以下VCS)」はまさにファミコンと同じ仕様である。
つまり、ハードウェアがあって、ゲームソフト(プログラムROM)というソフトウェアがある。ファミコンソフトと同じようにプログラムのROMを書き替えれば、様々なゲームを楽しむことが出来て、爆発的には普及した。
1980年にはスペースインベーダーやパックマンなど、今でも愛されている不朽の名作がこのVCSでプレイすることができた。そのためになんと1400万台の売上を誇った。
当時、ゲームといっても、ゲームセンターやゲーム喫茶などが流行していたぐらいだ。ゲームそのものの知名度が一般的にはほとんどなかった時に、1400万台を売り上げたというのはまさにゲームという物が新しい時代の娯楽として受け入れられていく土台を築いたことになる。
売れるとわかれば、各社、一斉にゲーム開発を取り組んでいく。そのために新規のゲーム会社は、様々なソフトウェアを開発していった。しかし、急成長、急拡大すればするほど、ゲームの質が落ちていくことになる。そう、この時、「粗製濫造」という、今なら様々な業界に応用できそうなことが起きたのだ。
それはアタリ社がまったく他のゲーム会社が提供するゲームソフトについての内容を一切把握していなかったことに原因がある。言うなればゲームを購入して、遊ぶまではどんなゲームかすらわからなかったわけだ。
今のようにネットでゲームのレビューや動画が見られるわけでもなく、ゲーム雑誌そのものが存在しているかどうかすら疑わしい時代だ。日本を代表するゲーム雑誌「ファミ通(ファミコン通信)」が登場したのは25年前とわかるとおり、ゲームの情報はそのものがほとんどなかった時代だと言って良いだろう。
そんな時代にユーザーは新品のゲームを購入しても,バグだらけだったり、急にフリーズしたりするようなゲームソフトに当たれば、ゲームを買うことに躊躇してしまう。
そうなってしまうと、ゲーム会社は倒産する。倒産すれば安くなったゲームソフトが店に並ぶ。わざわざ新品を買わなくても安くなるなら、待てば良いと、そうした消費者心理が働き、せっかくのVCSブームも5年で終了することになる。
アメリカでは、ゲームそのものが忘れられ、NES(海外のファミコン)が発売されるまで氷河期を迎え、あるとき、ワーナー・コミュニケーションズ社の株価が大暴落、アタリ社も衰退の一途を辿っていく。
また低価格のパソコンが誕生して、アタリ社のゲーム機より、高性能になってしまったことも付け加えておく。
プログラムは自由なので、わざわざアタリ社のゲーム機だけでプレイする必要はなかったのだ。しかも、簡単にコピーが可能だった。昔から、パソコンゲームはコピーが容易なことでヒット作が生まれにくい現実がある。
少し余談になったが、これが「アタリショック」と呼ばれている。これについての評価や見方は色々あるのだが、ゲームの質を管理することがゲーム業界にとって、如何に大切であるかを教えてくれる出来事だったことは間違いない。
そして、任天堂はアタリ社をずっと研究しゲームの弱点を知った。だからこそ、粗製乱造させないために、ゲームの質の管理などを徹底的にやったことで、ファミリーコンピューターは日本で大ヒットしたわけだ。
以上、任天堂が述べたことはアタリショックを連想していたのかどうかは定かではないが、低価格、低品質での商品の提供が、ゲーム産業そのものを潰しかねないという懸念はあるのだろう。
話を元に戻すが、任天堂の唯一の姿勢といえるのが、任天堂が追及するのは「娯楽」であることだ。携帯電話は公益サービスであって、娯楽の定義ではないとFils-Aime氏は述べている。
また、任天堂が10年前に携帯ゲーム電話の特許申請をしていたことも述べている。
これについては、2000年に任天堂が大手携帯会社ノキアと共同開発していたという噂があった。そのプロジェクトは中止に終わったわけだが、つまり、任天堂がアップルのような携帯市場の参入をまったく考えていなかったわけではない。
最後にFils-Aime氏は「任天堂の視点から見て、我々は携帯電話での競争上の優位性を持っているようには見えない」と述べている。
Point of view
このように任天堂にアイデアがないから携帯市場に参入しないのではなく、すでに携帯市場参入を検討した結果、参入してないことが明らかである。つまり、今後も、携帯電話でマリオやポケモンが遊べる日はやってくることは永久にないかもしれないということだ。
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